社会なんて知らない

高校なんてない

兄に私大進学を反対された話

正確に言えば私大に行くことを反対されました。私は美大志望で、私大に行こうと考えています。次男の兄は現在国公立の大学に通っています。

 今日、次男から電話がかかってきて一言目に言われたことが「国公立に行かないの?」 
「私大に行く」私は答えました。
「学費高いよ、私大は」と兄。
「でもキャンパス広いしきれいだし先輩方も先生も優しいし行きたい学部だし都会にあるし。国公立の美大はまず数自体少ないし美術学部があったとしても総合大学だしオーキャン行ったけど狭いし汚いし四年間もあそこに通いたくない」
「お前高校行ってないだろ。学校通えんの?」
「高校と大学は違うよ 高校は何も考えずに入ったけど大学はやりたい勉強があるから行くよ」
「バイトは?」
「頑張るよ。塾のバイトしてたし(引っ越してバイト先が遠くなり三か月でやめた)私大のパンフレット見たけど仕送りなしで通ってる学生もいるって」
「その仕送りなしの人は才能があっただけ。お前は才能ないし、一般人以下だから」
“お前は一般人以下”
その言葉に足元が揺れるような感覚を覚え、思考がふっと遠くに行きました。
私は兄のことを信じていました。長男を失った悲しみを家族で乗り越えていけるような気になっていた矢先、兄からのその言葉。裏切られた気持ちで心がいっぱいになりました。
なんなんでしょうね。家族でも軽々しく信頼するものじゃないですね。長男の自殺でそれがわかったはずなのに、私は全然わかっていませんでした。
母は私の私大進学を応援してくれて、父は何も言ってきません。
その時の私の脳内ではあの日の記憶が蘇りました。父がまだ自殺する前の長男の大学進学を反対した話。長男が高校三年生のときのことです。今住んでいる場所の前は、私たち家族は一軒家を購入しそこに住んでいました。母はずっと一軒家が欲しかったらしく、父は反対するも母は私たち兄弟三人の貯金を勝手に使い家を建てました。いざ建ってみると父は家を良く思ったのか家について何も言わなくなりました。
長男が高校三年生になり大学進学について本気で考えはじめたとき、「俺、東京の私立に行きたい」と母に言いました。「そうなると、この家のローンは払えなくなるかもねぇ」と母はぼやきました。それを聞いた父は「大学なんて行かなくてもいいだろ?」と長男に伝えました。
家のローンが払えなくなるから大学進学は諦めろ、と伝えた父に兄は怒りました。大声で怒鳴りました。
「こんな貧乏な家庭に産まれたくなかった!」私は兄のその大きな声量に驚きました。
「母さんは高卒だし父さんも私大に行ったのに俺を反対するし教養がない家庭に産まれたくなかった」
そう言い残して兄は自室に戻っていきました。
貧乏なのに家を建てたかった母は奨学金を借りれば大学にいけると考えていました。甘やかされて育ち学費を払ってもらっていた父は奨学金のことを知らなかったのか、兄の大学進学を反対。私は当時中学二年生で大学のことなんか全然考えていない子供でした。
母はもちろん兄の進学に賛成しましたが、それ以降兄は父を避けるようになりました。そして四年後、私大へ進学するも兄は自殺しました。

自殺したのは長男です。私の大学進学に反対した次男は電話でこう続けます。
「国公立に行かないの?」
数秒迷い、私は言います。
「考えておくよ」
そして兄が一言
「まあ私立でも俺はいいんだけどね」
「は?」
突然声を低くした私に驚いたのかその後の兄の言葉がもにょもにょと聞えづらくなり、「おやすみ」と電話を切られました。
なんなんだろう。
私の家族っておかしいのか。それとも私がおかしいのか。
私大はダメなの?学費が全てなの?次男、お前は何様なの?なんで長男は私大に行ったのに私はダメなの?なんで長男のとき反対しなかったのに私のときだけ反対するの?
そんな考えも数秒したら静まり、私は怒りを忘れ平常心に戻りました。切り替えが早いのが私の長所です。
とりあえず暫くは次男のことを忘れて勉強しようと思います。気にしたら負け。